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Psalm of The Sea

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犬は何語を話すのか。

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前の犬が亡くなってすぐの頃、二十世紀の最後の年。中学校時代の親友から電話がかかってきました。

「夕海、犬飼わない?」

話によると、ある日彼女のお母さんが買い物帰り、ペットショップでたまたま見掛けたガラス越しのコーギー犬(その頃ちょうど、小泉今日子さんが宣伝していた『午後の紅茶』のCMがはやっていて、それに出ていたコーギー犬も一緒にはやって、日本中のペットショップに出回った頃でした。)にひとめぼれして、そのまま買って帰って来たのだが、一匹では寂しそうだ。と言い出して、数日後に同じペットショップに行ってもう一匹買って帰って来て、その数ヶ月後、二匹がわんさか子犬を産んでしまった。売ってもいいのだけど、せっかくなので可愛がってくれそうな人のところに行って欲しい。とのことでした。

まるで大根買い過ぎちゃったみたいな感じだけど犬だよな・・・、と驚きながら、今はまだ新しい犬を飼う気持ちにはなれない。でもありがとう、ごめんね。と電話を切りました。切ったのですが、話を聞いた父が「でも、見に行くだけいってみない?」とそそのかすので、そうだね。久しぶりに彼女にも会いたいし、行くだけ行ってみようか。と重い腰を上げたのが、クーと出会うきっかけとなりました。

中学校以来久々に訪れた彼女の家は、当時と変わらず横浜のとある街に立つライオンズマンションの一室で、ところせましと家族みんなの荷物がひしめく中に、二匹の親犬と子犬達はわらわらと戯れていました。子どもというのは人間に限らずみな可愛いもので、手のひらに乗るくらいの小さな犬達が5匹も6匹もお尻をかじりあっているのを見てしまうと、抵抗するのはとても難しい。「触るだけならいいかな」と、手を出そうとした時、そのうちの一匹がじっと私の目を覗き込み、側にやってきて離れなくなりました。刷り込み卵ではないですが、きっと誰かが誰かと出会うというのはそんなもので、恐らくクーも私もあの瞬間に、ああ。わたしはこいつと暮らすんだな。と、お互いの了解が交わされたことを覚えています。


あれから十年が経ち、「クー」と名付けた彼はすっかり四本の足が立たなくなって、寝たきりの老犬になってしまいましたが、今でも毎日よく話します。特に私に対しては、甘やかしたせいもあり、よく何かを訴えかけてきます。クー自身は、私になら自分の言葉が通じると思っているようで、細かく音程を変えながらいろんなことを喋ります。むろん私に犬語は分からないので、うん、うん、そうかい、と分かった振りをして頷いていると、やっぱり君にはわかるのか!と、さらに喋り続けるのですが、犬が喋るのは吠えるということですから、非常にうるさい。うるさいので、時々無視するのだけれど、懸命に喋る(吠える)ので、仕方なく、わかった。じゃあ言いなよ。何を伝えたいの?と、がっちり対面します。

大体の場合はオシッコに連れて行け、というサインで、抱きかかえて外に連れ出すと、耐えきれず玄関先で「ぴゅぴゅ〜ん」と、黄色い噴水が吹き上がります。もしくは、立派な怪獣の卵のようなウンチが生まれて来ます。それ以外は、「はらへった、飯食わせろ」と「のどかわいた、水」がほとんどで、やっぱり動物は排泄と食欲がいちばんなんだな。と思います。あと、「痛い」「寒い」も、分かりやすいので、部屋を暖めたり、毛布でくるんだり、体を揉んだり擦ったりするのですが、その全てを網羅してもさらに吠えるときは、たぶん「さびしい。愛をくれ」なんだと思う。

ひゃんひゃんひゃんひゃん吠えるので、ああ、うるさい!なんだよ!オシッコしたし、ウンチしたし、ごはん食べたし、お部屋あったかいじゃん!仕事にならんよばかたれ!と怒る私の目をじっと見つめて黙ってしまう時は、しかたがないので、彼の頭の上に座布団を持って来て、両足の間に挟んで座りながら本を読んだり、ibookを膝に乗せて作業をします。歌うときは、キーボードの下まで彼の横たわっているござを引っ張って来て、左足でよしよしと撫でながら稽古をします。そうするとそのうち眠ります。

歳を取り、足が効かなくなった今は、耳や体のあちこちを自分で舐めて掃除をすることもできないし、伸びもできないし,あらゆることができなくなって、とにかく苦しくて悔しくて悲しくて、「夕海のばかたれ!ばかたればかたれ!」と、叫びまくります。本当にうるさい。でも、無駄吠えというのはひとつもないな。と思うようになりました。

クーは、犬語をしゃべっているんだろうか。
それともこれは、一応、私に伝わると彼の思う別の言葉をしゃべっているんだろうか。

わからないけれども、とにかく、何かを私に伝えようと努力しているのは確かだから、それを随分長い間、実家に預けっぱなしにして、時々行ってちょっと相手をするだけだったこの数年の彼への私の態度には、反省するばかりです。せめて老後、あとどれくらい生きるのかわからないけど、出来る限りちゃんと話合いたいと思っています。

と思ってこのところ手厚く介護してたら、ウンチがコロンとでかくなり、鼻も黒々と濡れて光り始め、まるで王様のようになってきたクーでした。
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by Yoomi_Tamai | 2011-12-16 19:51 | わたくしごと
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